山歩き日 2018年6月16日
前回訪れた横倉山。
見所満載で、非常に満足できた山旅だった事は記憶に新しい。
そんな横倉山にはもう一つ大きな魅力がある。
それが、今回の山旅の目的、「光るキノコ」である。
きのこの名前はシイノトモシビダケ、”椎の灯火茸”という。
なんて可愛らしい。
名前からして雰囲気が十分想像できてしまう。
命名した人、なかなかオシャレである。
八丈島で発見されたこのキノコは長らく島の固有種と思われていたらしい。
だが現在ではここ高知を含む日本各地で自生の報告がある。
ただ、海外では見られず、日本固有種である事は間違いないようである。
梅雨時期に発生し、闇夜にぼんやり緑色に光るその姿は、多くの写真家の目を引きつけて来たようだ。
色々な本でも紹介されているし、ネットでも幻想的で素晴らしい写真がたくさん出てくる。
そのキノコが横倉山でも見られるという。
これは見ておかなくては。
ただ普通に山に登り頂上を目指すだけでなく、もっと細かい深い部分まで山に触れ合いたいと常々思っていたところだったのでちょうど良い。
とりあえず直近の情報はなかったが、梅雨時期なので多分大丈夫だろうと出発。
久しぶりに仕事が早く終わった土曜日の夜、Tと共に横倉山へ向かう。
Tをピックアップした後、一路横倉山へ向かうのだが、どんどん天候が悪化する。
先ほどまで燦々と熱線を振りまいていた太陽もすっかり厚い雲に覆われて力を失っている。
もちろん天気予報は晴れマークだ。
ここに来て、やはり雨男説が現実味を帯びて来たT。
少しは悪びれているかと思いきや、キノコの横で飲まなくてはと小さなザックにビールを詰め込んでいて、楽しそうだ。
どうやら全く意に介していない。
キノコのついでに夕日に染まりつつある山並みや森の風景を撮れたらなんて思っていたのだが、どうやらそんなにうまくはいかないようだ。
17:30 駐車場着。
横倉山には標高の低い所から第一、第二、第三と3箇所の駐車場がある。
今回は一番上の第三駐車場から登ることにする。
駐車場に先行車はなく、我々と同時に入って来た車が1台のみだ。
その車から降りて来た、どうやら愛媛から来たという年配のご夫婦からあまり芳しくない情報を得る。
直近の雨が少なさが影響し、キノコの数が少ない&枯れてしまったのも多いとのこと。
どうやら麓にある、横倉山自然の森博物館の職員さんからの情報なので間違いなさそうだ。
むむむ。
状況は厳しそうだが、まあとにかく出発だ。
薄暗くなってきた中、鳥居をくぐって入山する。
そういえばナイトハイクは初めての経験だ。
どんな感じなんだろうか?
とりあえず倒木や枯れ木に注意しながら歩く。
愛媛のご夫婦はホタルの撮影目当てらしい。
ここ横倉山ではキノコの他にホタルでも有名なのだ。
達磨夕日やら蛍やら、これと思い込んだ被写体ができたら通い詰める旦那さんに連れられて奥さんも一緒に各地を回っているとの事。
なかなか微笑ましい、そしてうらやましい話だ。
そんな話を聞きながら、キノコを探す。
しかしなかなか見つからない。
ないね、ないねと言い合いながらの行軍となる。
いや、本当に見つからない。
まあまだ少し明るいので逆に見つけにくいのかもしれない。
またしても歩みを止めてしまったこのウラジロモミ。
前回と同じアングルでまた撮ってしまう。
いやはや存在感抜群の木である。
相変わらずキノコは見つからないが。
そんな中でようやく発見したキノコ。
少し何者かにかじられているような感じ。
しかし姿形は求める光るキノコとは全く違うものだ。
ネットによる事前調査で、シイノトモシビダケの形だけは覚えてきている。
薄茶色の小さな三角錐の傘が目当てだ。
前回の山旅で撮ってなかったカツラの大木。
これまた存在感抜群だ。
根元から無数に伸びているひこばえ。
何か神々しい感じがする木である。
途中それらしいキノコを2、3個発見したが、発光はしていなかった。
枯れているのか?
そもそも別のキノコかもしれない。
とにかくいろんな場所に群生という訳ではなさそうだ。
気がついた倒木や枯れ木を入念に探しながら歩く。
そのまま杉原神社を通過し、陵墓参考地周辺、そして横倉宮まで来た。
時間は19:30を回り、随分暗くなって来たが相変わらず発見できない。
これは間違い無いだろうと思ったが、発光はしていない。
時間は無情にも過ぎ去り、そのまま杉原神社まで下山。
まさか一つも見つけれないとは想像していなかった。
神社では途中で別れた愛媛のご夫婦がホタルの撮影をしているようだった。
確かに道中、ホタルは何匹か見かけていた。
キノコを一つも見つけれなかったと報告。
神社には暗くてよく見えないけど他にも何人かいるようだ。
その中の一人の方がなんと光るキノコまで案内してくれるという。
なんて親切な方だろうか。
誰も見つける事が出来なかった光るキノコ。
おそらくこの方もようやく発見したのだろう。
その貴重な場所を惜しみもなく教えてくれるという。
先程のカツラの大木と同じくらいこの方が神々しく見えてくる。
愛媛の夫婦もすでに勝手に先生などと呼んでいる。
かくしてここに急造のきのこ観察チームが結成される。
先生、愛媛の夫婦、我々二人、そして高知市から原付で来たという女の子。
彼女はどうやら一人らしいが、よく一人でこの漆黒の森に入る事ができたものだ。
なかなかの強者の様子。
それぞれ先生の後に続いて道を下る。
そして随分下り、ほとんど駐車場のすぐそばの登山道から少しそれた所にあった、朽ちかけた倒木の上にそれはあった。
感動の対面。
みんなの第一声は、「小さっっ」
確かに想像よりも随分、小さい。
色も黒っぽく、これでは光っていないとなかなか気づかないかもしれないと思った。
しかしライトを消してみると、確かにじわっと光っている。
なんとも弱い、弱い光。
けど確実に光っている。
みんな歓声をあげる。
椎の灯火茸、まさにその名前のイメージそのままだった。
奥ゆかしい、儚い感じの、日本人の琴線に触れそうなきのこだ。
一通り観察し終えると、撮影タイム。
どうぞ、どうぞと交代しながら撮る。
しかしこれがなかなか難しい。
対象が小さいうえに、足場が不安定、かつ障害物も多いためなかなか三脚を固定できない。
カメラの腕よりまず、三脚の設置技術が必要だと思うくらいだ。
夫婦の旦那さんは何とかそれらしい物が写り込んだだけだと苦笑い。
先生は慣れた手つきでシュッとワンカット。
むむむ。
流石だ。
先生はどうやら今晩山に泊まるらしい。
気の済むまで真っ暗闇の森を歩き、そして森の音を聞きながら寝る。
うーむ、楽しそう。
少し怖そうだけど。
しかし光るキノコがそこにあると思えば、妙に安心な気もする。
自分は後から何時でも撮れるので、先にどうぞと譲ってくれる。
しばらくして夫婦と女の子は下山、先生は山の方へ戻った。
我々はもう少し粘る。
せめてブログに貼れるような写真を撮りたい。
Tは念願のキノコの横でビールを満喫している。
ライトを点けてアングルとピントを合わせ、ライトを消してシャッターを切る。
何回繰り返したことか。
考えてみるとライトを点けたり消したり、まるで横倉山のほたるのようだ。
ううむ、悪くない。
無理やりだが、少しは山に溶け込んだ気になってくる。
21:30 駐車場へ下山完了。
上空には星空。
北斗七星が迎えてくれる。
なかなか厳しいキノコ探索の旅となったが、親切な方々に助けられてなんとか撮る事ができた。
山登りにはこういう出会いもあるのでやめられない。
大の大人が真っ暗闇の森の中で小さなキノコを囲んではしゃぐ姿はなかなかの風景だろう。
細々としたブログなので、もし見ている方がいたら。
あの時はどうもありがとうございました、そしてお疲れ様でした。
条件的にはこれから雨が続く予報なので、その後が良さそうだ。
もう一度挑戦したい。